フォトグラファー・柳詰有香さん【前編】

「しあわせ」の形は人それぞれ。今をときめく素敵な人たちにとっての「しあわせ」を探る連載の第3回目のゲストは、フォトグラファーの柳詰有香(やなづめ・ゆか)さんです。フードを中心に、インテリア、ファッション、家族写真まで、さまざまな素敵な瞬間を切り取り続ける柳詰さんにとっての「ボヌール=しあわせ」な瞬間とは?

宝探しのように、輝く一瞬を切り取りたい

目の前にある対象物とまっすぐに向き合い、それが最も輝きを放つ瞬間を引き出して、静かにシャッターを押す。フォトグラファーの柳詰有香さんは、凛としなやかな見た目そのままに、いつもたおやかに動き、写真を撮る。

彼女が今の仕事を志したきっかけは?「父が幼い頃の写真をたくさん撮ってくれていて。大人になってからも家族の写真を見るのが好きでした。写真は、大切な一瞬を切り取り、形に残すことができます。時を巻き戻せるような感覚で、過ぎた時間や楽しかった記憶をぎゅっと凝縮して残すことができる写真という存在に、幼い頃から強く惹かれていたんだと思います。
フォトグラファーの仕事は日常の中から輝く瞬間を探すことかもしれません。それって、まるで宝探しみたいですよね」と柳詰さんは振り返る。

学生時代は写真と全く関係のない、むしろ遠い世界を生きていた。趣味として写真には興味をもっていたものの、大学では理数系学部に進み、将来はプログラミング関係の道で生きていこうとしたというから、驚きだ。
学生最後の時、ヨーロッパを1ヵ月周遊するひとり旅に出た。カメラ片手に気の向くまま、写真を撮る旅。現地の子どもたちや路地裏に座っているおばあちゃんなど、心の琴線に触れた瞬間を撮り続けた。写真を通じて、現地の人たちとコミュニケーションを取る楽しさを知った柳詰さん。

その後、いったんはWEBの制作会社に就職し、働きながら写真の学校に通い、写真展を開くなどしていた彼女に転機が訪れた。憧れのフォトグラファー蜷川実花さんの「アシスタント募集」の張り紙を見つけたのだ。本格的なカメラは未経験者だったのでダメ元で応募したところ採用が決定。蜷川さんの下で働くことになる。

気鋭女性フォトグラファーに師事、そして、編集者へ。

「道端に咲いているお花なのに、蜷川さんが撮ると、ぐんと色彩豊かな別世界に見えてくる。そう、何気ない瞬間がいきなり輝くんです。アシスタントの仕事は忙しくて、くじけそうな経験もたくさんありました。でも、やりがいがあって、見たことのない世界をたくさん見せてもらって、人生であれほど学んだ時期はありませんでした。写真の技術というよりも人としての生き方を多く学んだ気がします」。
蜷川さんという尊敬する師匠のそばで過ごした、厳しくも楽しい3年間。事務所卒業後は、アシスタント時代からご縁のあった出版社に入り、フォトグラファー兼編集者として仕事を始めることに。

「当時、フォトグラファーから編集者へという転進は、結構珍しかったかもしれないですね(笑)。でも、一枚の写真で勝負することより、ストーリーを紡いで、複数の写真で世界観を作り込んでいくほうが好きだと気づいたんです。写真を撮っていてもページネーションが気になる性質で。写真を撮りながら、取材やインタビューをして、という二足のわらじ状態でしたね」。
その後、出産を機に一本の道に絞ろうと、フォトグラファーとして独立する。「いろいろやってみたからこそ、写真を撮っているときがいちばんしあわせだと気づきました。あれもこれもやりたいだった20代から、本当に好きなことを追求し始めた30代なのかな」。

人生を変えた一冊の写真集

柳詰さんのその後を大きく変えた作品がある。それが、写真集『CIRCLE』。世界各地のレストランで修業し、現在は京都にある「monk」でシェフを務める今井義浩さんの料理と京都の風景を切り取った写真集だ。

柳詰さんが、友人であるシェフの料理とその世界観に心惹かれ、京都に通い撮影を続けていたことがこの本を企画・制作したきっかけだそう。四季折々、豊かな自然の風景と旬を生かしたお料理の数々を1冊にまとめた。一般的な料理のレシピ本とは違い、どこかしらドキュメンタリーや報道写真のような印象を与える不思議な写真集。それが、美しすぎる料理写真集として大きな話題に。

「プロとして依頼を受けた仕事もきちんと全うします。一方で、自分が好きなことだけをやる、というしあわせな時間が私には必要なんでしょう。今も、大皿彩子さんとパンだけをひたすらに撮り続ける作品(@TOKYOPANZUKAN)を作っているんです(笑)。お仕事という枠組みにとらわれず、好きなモノをただひたすらマニアックに撮影する。そういう時間が私のしあわせなひと時です」。

【profile】
柳詰有香(やなづめ・ゆか)
1983年東京生まれ。2007年よりフォトグラファー蜷川実花氏に師事。独立後、出版社にて雑誌や写真集の企画、編集、撮影に携わる。現在は子育てをしながらフリーランスのフォトグラファーとして、広告や雑誌、WEBなどで活躍。ファッション、ポートレート、フード、キッズ、など、女性らしい視点での撮影を幅広く手がける。
http://www.yukayanazume.jp
https://www.instagram.com/yukayy/
Instagram @yukayy